台所なリズムとにおい

子供が熱を出したりしたとき
そっと静かな部屋で寝かせておきたい、っと思うのが普通かもしれない。

+++++++++

私が小学校に上がる前、幸か不幸か
旧宅に新宅がプラスされ、長い廊下続きの広い家になった。

独り部屋になる。兄とも別々な上、隣でもない。

熱を出してその「独房」(笑)に寝かされポツンといる私。

静か過ぎる空間が、とても怖い。
静か過ぎて眠れないのだ。

母は自営の手伝いで正午になるまで部屋に来ることはない。
変わりに従業員のおばちゃんが様子を見に来てくれたりする。

とにかく、耳を澄ましている。必死に耳を澄ましている。
あの長い廊下を歩いてくる音にありったけのパワーを傾ける。

歩くスリッパの音で、誰が来るのかを聞き分けていた。

そんな作業に疲れてようやく眠れても、怖い夢ばかり見る。





+++++++++++++

お盆やお正月は、島根県のおばあちゃんちでよく過ごした。

おばあちゃんちが大好きでたまらなかった。
裏庭、裏山、五右衛門風呂、畑、川、土間、きしむ床の音、玄関引き戸。

ある日、熱を出す。
おばあちゃんは台所のとなりの部屋に布団を敷いた。

となりの部屋と言っても台所にいるような位置。

母たちは、いとこたちと近くのどこかへ行っていた。


おばあちゃんは土間にある洗い場で、野菜をジャブジャブ洗っている。
その音からすると「裏の畑の葉物野菜かな」っと想像する。

カーン。っとビンが何かにぶつかった音がする。
でも割れてない音だな、なんて思っているうちに、気持ちいい眠りに誘われていく。










夢か現実かはっきりしないボーっとした空間をさまよいながら
気がつくと、おばあちゃんが大根か人参をトントントン・トントントンと
軽いリズムで切っている。

目を開けるとすっかり暗い。夕方だった。

しゅっしゅ・っしゅっしゅっ。っしゅっしゅっしゅ。
ああ。この音。おばあちゃん、かつおぶしを削っている。


そして一瞬にして、かつおのにおいが部屋中に広がった。

ドサドサドサ!っと大きい鍋に根菜を入れる音がしたと思ったら

グツグツ沸騰する音に変わって
おばあちゃんが火を弱めると、今度はお味噌のにおいがする。

とにかく音とにおいの園。想像力のオンパレードだった。
なのに、ところどころで不思議と熟睡している。


そして「おばあちゃん。おなかすいた」・・・笑

頭の中で描いたおかずが出来上がると同時に
おばあちゃんも食卓に並べ出す。

台所を飛び交っていたリズムとにおいが
食欲をそそった。のだと思う。

そして何より「ひとりぼっち」を感じない。
目が覚めたとき、そこには「安心」があった気がする。

こんな歳になった今でも、その時の光景を
局部まで思い出す。

+++++++

そんな台所寝かせ術。
おばあちゃんの作戦だったのかどうかは分からない。
今となっては。

でもそれがあったから
私は息子が熱を出したときには、台所の横に寝かせている。

そして息子も言う。「かあちゃん、なんかおなかすいた。たまごおじやでしょ?」
食いしん坊のDNAは受け継がれている様子。

[PR]
by soronoki | 2010-02-06 09:42 | * つぶやき

長野県佐久市


by soronoki